この後私たちは、休耕地の一角に腰を下ろしてもぎたてのトマトにかじりついた。
先に守村くんが半分かじって、その後半分を私が頂戴する。
手渡された時、果肉に守村くんの歯型が残っていて、ちょっと照れた。
トマトを2人で分け合うなんて、1年前なら絶対に抵抗があって出来なかったけれど、最近はむしろ嬉しかったりする。
どんなものにしろ、まずは畑を耕すところから一緒にはじめている。
肥料の与え方、ビニールのかけ方、害虫の駆除の仕方。どれをとっても私たちの意見は合わないのだけど、
それでも畑に出てみれば、一緒に作業をすすめる。
この前先輩から、これらの作物は2人で作ったものだから、どれも自分達の子どもだと思うと良いと言われて、
なるほどと感心した。守村くんの方は、随分恥かしがっていたけれどそんな事は気にしない。
どんなに出来が悪くても、見栄えのしないものができたとしても、どれも凄く愛着を感じてしまう。
そして守村くんには、大きな連帯感を感じる。友達と言うより、同志と言う様な。
だから私たちはトマトでもスイカでも、1つの収穫を一緒に味わうようにしている。
「ねえねえ。この前頼んでおいたあれ、守村くんとこ、どんな感じ?」
「ああ、残飯を堆肥にするって言う、あれですよね」
「うん。私の所はね、けっこう良い感じにできてきたよ。ちょうど半分くらいの量になったかなあ」
自分の家で出した残飯を使って、肥料を作りたい。
守村くんと先輩達数人に協力して作ってもらっているのだけど、なかなか事はうまく運ばない。
それでも、守村くんはリンゴの皮や卵の殻をわざわざ天日で乾燥させて持ってきてくれる。
花を1つ咲かせる為に、作物を1つ実らせる為にどれだけ愛情を注ぐことができるのか。
クラブ活動2年目でようやく、活動の面白さに目覚めてきたところだ。
「小波さんは順調ですね。僕のところはその……」
「うん?」
一瞬、守村くんの表情が陰る。
「家でご飯を食べる者が少ないと言うか……その、食事は殆ど僕一人だし、父は外食で済ませることが殆どで」
メガネのブリッジを押さえながら、守村くんは小さく笑った。
「ああ……。それはしょうがないんじゃない?」
「すみません、なかなか力になれなくて」
「全然!守村くんのペースですすめていってよ」
「そう言っていただけるとすくわれます。家政婦さんが上手にゴミを出さないように
作って下さってて、それに僕も食べ残すことに抵抗があるので」
「うん。それが一番良いと思う」
最近になって、少しずつ彼の家の事情がわかってきた。
家ではほとんど一人で暮らしているとか、話しかける相手は小学生の頃から育てた梅の盆栽だとか、
少しでも気持ちが塞がないようにと、テレビのお笑い番組を結構見ているとか。
もっともっと、思っていることを話した方が良いと思う。
こんなふうに、トマトをかじりながらで良いからさ。
トマトを食べ終えると、私たちは暫く呆けたように空を眺めた。
梅雨に入る手前の、最期の晴れ間だと思う。少し分厚い雲が西の空に広がっている。
きっと今晩から雨が降るだろう。
「そういえば……」
何かを思い出したのか、守村くんの声があかるくなった。
「そういえば、何?」
「さっき、僕がヒャクニチソウに水を撒いていた時」
「うん?私、まだここに」
「来てません。小波さんは、まだあそこにいた」
「あそこって。……あっ」
守村くんが指差す方から、幾つもの金管楽器の音が聞こえてくる。
「今日のピアノ。聞いていて楽しかったなあ」
守村くんはお月さんのように目を細めて笑った。
※ついったーやウェブ拍手で色々感想下さいましてありがとうございます。
読んでくださる人がいるのは本当に嬉しいです。
守村くんとの描写は、できるだけ丁寧に書いていきたいと思います。
メインは氷室先生の話ですけど、脇役をしっかり書こう。これが今回の目標です。
※さつきさん、どうもありがとうございます!そして御無沙汰しております。
あとでメッセージ送りますね。
先に守村くんが半分かじって、その後半分を私が頂戴する。
手渡された時、果肉に守村くんの歯型が残っていて、ちょっと照れた。
トマトを2人で分け合うなんて、1年前なら絶対に抵抗があって出来なかったけれど、最近はむしろ嬉しかったりする。
どんなものにしろ、まずは畑を耕すところから一緒にはじめている。
肥料の与え方、ビニールのかけ方、害虫の駆除の仕方。どれをとっても私たちの意見は合わないのだけど、
それでも畑に出てみれば、一緒に作業をすすめる。
この前先輩から、これらの作物は2人で作ったものだから、どれも自分達の子どもだと思うと良いと言われて、
なるほどと感心した。守村くんの方は、随分恥かしがっていたけれどそんな事は気にしない。
どんなに出来が悪くても、見栄えのしないものができたとしても、どれも凄く愛着を感じてしまう。
そして守村くんには、大きな連帯感を感じる。友達と言うより、同志と言う様な。
だから私たちはトマトでもスイカでも、1つの収穫を一緒に味わうようにしている。
「ねえねえ。この前頼んでおいたあれ、守村くんとこ、どんな感じ?」
「ああ、残飯を堆肥にするって言う、あれですよね」
「うん。私の所はね、けっこう良い感じにできてきたよ。ちょうど半分くらいの量になったかなあ」
自分の家で出した残飯を使って、肥料を作りたい。
守村くんと先輩達数人に協力して作ってもらっているのだけど、なかなか事はうまく運ばない。
それでも、守村くんはリンゴの皮や卵の殻をわざわざ天日で乾燥させて持ってきてくれる。
花を1つ咲かせる為に、作物を1つ実らせる為にどれだけ愛情を注ぐことができるのか。
クラブ活動2年目でようやく、活動の面白さに目覚めてきたところだ。
「小波さんは順調ですね。僕のところはその……」
「うん?」
一瞬、守村くんの表情が陰る。
「家でご飯を食べる者が少ないと言うか……その、食事は殆ど僕一人だし、父は外食で済ませることが殆どで」
メガネのブリッジを押さえながら、守村くんは小さく笑った。
「ああ……。それはしょうがないんじゃない?」
「すみません、なかなか力になれなくて」
「全然!守村くんのペースですすめていってよ」
「そう言っていただけるとすくわれます。家政婦さんが上手にゴミを出さないように
作って下さってて、それに僕も食べ残すことに抵抗があるので」
「うん。それが一番良いと思う」
最近になって、少しずつ彼の家の事情がわかってきた。
家ではほとんど一人で暮らしているとか、話しかける相手は小学生の頃から育てた梅の盆栽だとか、
少しでも気持ちが塞がないようにと、テレビのお笑い番組を結構見ているとか。
もっともっと、思っていることを話した方が良いと思う。
こんなふうに、トマトをかじりながらで良いからさ。
トマトを食べ終えると、私たちは暫く呆けたように空を眺めた。
梅雨に入る手前の、最期の晴れ間だと思う。少し分厚い雲が西の空に広がっている。
きっと今晩から雨が降るだろう。
「そういえば……」
何かを思い出したのか、守村くんの声があかるくなった。
「そういえば、何?」
「さっき、僕がヒャクニチソウに水を撒いていた時」
「うん?私、まだここに」
「来てません。小波さんは、まだあそこにいた」
「あそこって。……あっ」
守村くんが指差す方から、幾つもの金管楽器の音が聞こえてくる。
「今日のピアノ。聞いていて楽しかったなあ」
守村くんはお月さんのように目を細めて笑った。
※ついったーやウェブ拍手で色々感想下さいましてありがとうございます。
読んでくださる人がいるのは本当に嬉しいです。
守村くんとの描写は、できるだけ丁寧に書いていきたいと思います。
メインは氷室先生の話ですけど、脇役をしっかり書こう。これが今回の目標です。
※さつきさん、どうもありがとうございます!そして御無沙汰しております。
あとでメッセージ送りますね。
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