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ちょっと遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
のんびり進行中のわたくしです。今年も皆さんよろしくおつきあいくださいませ。
お休みしている間、ウェブ拍手に温かいメッセージありがとうございました。
あらほくが良いと言って下さった方。
アナタはえらい!!
そうです。あらほくは萌えます。私が拙いばかりに、その萌えを十分に伝えきれないのが歯がゆいばかりです。
続きを~の声を幾つか頂けたので、調子にのって続けます。
よかったら、おつきあいくださいませ。


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「五徳の傷」


ただいま。
仕事を終えて自宅に戻ると、部屋はすっかり冷え切っている。
カーテンをしめきった窓は結露で潤んでいた。
鞄と部屋の鍵、そしてポストに溜っていた書類を机の上に置くと、ほくちゃんは台所に向かう。
しゃがみこんで冷蔵庫をあけると、そこだけがぽっと明るくなる。
飲みかけのミルクを出すと、ほくちゃんは小さなほうろうの鍋にそれを移した。

ガス台の上に鍋をおいて火にかける。
2つある五徳のうち、一番小さなところでミルクを温める。
他の1つには鍋がおいてある。今朝の朝食を作る時に使ったままで、まだ洗っていない。
鍋をどかして流し台の中に置くと、ほくちゃんはさっきまで鍋をおいていた方の五徳を眺める。
このガス台は、ほくちゃんがここに越して来るずっと前からあったらしい。


五徳のまわりに残っている錆は、暮れの大掃除で恋人がつけたもの。
油ですっかり汚れきった部分を、嵐が力づくで落とそうとしたからだ。
洗浄液に暫くつけておけば、女の自分でも簡単に落とせるのに、
その部分が嵐にとっては無知だった。
----大丈夫、部室の掃除もこうやってるから。
そう言って、力任せにたわしでその部分をこすっていく。
数年落ちのプリンターが10枚ほど賀状を印刷している間に、それは起こってしまった。
-----ごめん、ほくちゃん。俺、なんかやらかしたかもしれない。
大きな体が急に小さくなった気がする。
気にしない、気にしない。この家をあける時は、大家さんにちゃんと謝っておくから。
ほくちゃんは、ちょっと大人な気分で恋人のへまを許してあげた。
背を伸ばして、よしよしと嵐の頭を撫でてみた。栗毛色の髪に指をからめると、すっと指どおりが良い。
見た目とは違い、嵐の髪はとても触り心地が良い。ほくちゃんは思わず、「ふう」と小さくため息を漏らしてしまった。
それを嵐は聞き逃す事は無かった。次の瞬間かがめていた背を伸ばすと、ほくちゃんの顔をちらっとにらみつけた。
一気に、嵐が元の姿に戻っていく。
そして洗い場で勢い良く手の汚れを落とすと、濡れた手のままでほくちゃんの腰に手をまわした。
----ごめん、ほくちゃん。
今度の詫びは、さっきのものとは全然違った。ほくちゃんの髪の中に、嵐の指が滑り込んでくる。
ぴたりと合わさる広い胸板。はじめて耳にする嵐の鼓動。
----あ、あら、し……!
ほくちゃんは慌てた。
抱きしめてくれるのは凄く嬉しいけど、その、私……。
まだ片付いていない掃除に、年越し蕎麦の買いだし。それに年賀状。
哀しいかな、こんな嬉しい場面でも、つい生活感が頭から離れられない。
----いいから。
何が良いからなのか、わからない。もしかして、自分の考えていることが分かっているのだろうか。
こめかみに、みみたぶに、鎖骨のくびれ。
嵐の暖かい唇の感触をそこに感じた。けれど、そこで嵐の動きは止まってしまった。
唇に触れることなく、胸元を包むこともなく。
---ほくちゃんが俺の髪に触ってきたら、なんか、俺……。
その後、また嵐は小さくなった。さっきより、もっと小さな声でごめんと詫びる。
ほくちゃんの動揺は、暫く治まることは無かった。ただ黙ったまま、2人ともガス台の汚れを見つめていた。



こうして暮れに作った小さな傷は、正月の雑煮や汁粉の吹き零れをいっぱい被った。
そしてごうごうと火をくべるうちに、その傷は赤く錆びていく。
新年が過ぎて半月経った今、ほくちゃんはその錆を見ることで気持ちが温まる。
大晦日のことが、ここに立っているとリアルに思い出せる。
あの時は嬉しいような切ない気持ちになったけれど、今は嵐を想う気持ちでいっぱいになる。

「うーんと。コーヒー牛乳にしようかなあ」
インスタント珈琲のビンの蓋をあける。すでに牛乳は十分温まっていた。
茶匙で顆粒を一匙すくって鍋にいれる。
乳色の鍋の中は、瞬く間に茶色く染まっていった。



おしまい。
今度は、ほくちゃんと嵐がお外で凧揚げをする話だよ。(次回予告)
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