忍者ブログ
.
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

※「先生のソナチネ」読んで下さって有難うございます。コメント有難うございます!
ちょっと話の間に、違う小噺を挟ませていただきます。
以前書かせてもらった、嵐さんとアラサーな「ほくちゃん」との、恋のお話の続きです。
月1ぐらいで書かせていただきたいと思います。

ではでは、お話はじまり。

『いやだいやだ』

11月の中旬を過ぎたら、ほくちゃんはとても気持ちが落ち込んできた。
基本的にマイナス思考優先で日々過ごしているのだけれど、この時期は特に辛い。
それも仕事をしていない時の、完全なオフの日が。
朝起きると、窓のカーテンをあけるのも億劫。テレビもあまり見たくは無い。
折角湯を沸かしても、その後お茶を作る気にもなれない。沸かした湯はいつのまにか
温み、日が高くなった頃にはすっかり冷めていた。
あーあ、ガス代損したなあ。ほくちゃんはそう心の中で省みるものの、すぐには
その行動を改める事ができないのも知っていた。

もうやだ。とにかくやだ。やだやだやだ。やーだもーん。
子どもの頃に読んだ御話の様に、頭の中は稚拙な言葉で埋め尽くされる。
どうしよう。今日は買い物にも行きたくない。冷蔵庫の中、何にも無いのに。
何ヶ月か前に買った情報誌を開くと、ほくちゃんはその上に足を置いた。
投げ出した素足は開いた紙の上にぼんやりと影を落とす。
爪の上に重ねたマニキュアの色は季節外れな水色。そういえば、嵐がこの色を見て、ちょっと顔をしかめてた。
あまり良くわかんねえけど、もっと自然な色を塗った方が良いんじゃねえ?
年下の恋人は、そう言いながら同じ色をしたかき氷を食べていた。
夏の浜辺には似合うような気がして塗ったのに、誉めてもらえなかったのが悔しかった。
それでも一瓶使い切ろうと思ったのは、子どもじみた意地。
夏が過ぎ、秋が来て、もうすぐ冬を迎えようとしているのに、ほくちゃんの爪先は青いまま。

もうやだ。とにかくやだ。やだやだやだ。やーだもーん。
むつっと黙ったまま足の爪を切っていく。
「でもさ……嵐はさ」
それでも、こんな色をした足を、嵐は好きだと言ってくれる。中指の爪を切り落とした時、ぽつりと独り言を呟いた。
ほくちゃんの足首は細いんだよ。あまり運動には向いていない足の造りだけど、俺は好きだ。
そんな事を言って、嵐は足首をきゅっと掴んできた。
相手はただ無邪気にほくちゃんの足首を掴んだだけに違いない。それなのに、ほくちゃんの方はどうしようもないくらい
恥かしい気持ちになった。
相手の胴着に激しく手をかけるのと違って、ほくちゃんの足首に触れる時は別人の様にその手は優しい。
そして、顔以外の素肌に嵐が触れたのは、今だもって足だけだ。
明日、マツキヨでネイル買ってこようかな。もっと優しく可愛い感じの色の。そうしたら、また嵐はこの足に触れてくれるだろうか。
ぱちり、ぱちりとリズムの良い音が続く。嵐の事を考えているうちに、ほくちゃんは少しずつ気持ちが治まっていった。

 

 

爪を全て切り揃えると、ほくちゃんはふたたび暇になった。
「よし!」
覚悟を決めたのか、とうとう、ほくちゃんは重い腰をあげた。爪きりの時に使った情報誌はゴミ箱の中へ。
今度はちゃんとお茶を淹れよう。沸かした湯を無駄にしないようにしよう。
ガス台に火をつけて、水の入ったポッドを置くと、ほくちゃんは茶缶の蓋をあけた。
今日は番茶にしよう。この前スーパーで見つけた「赤ちゃん番茶」。赤ちゃんでも飲める番茶なのか、赤ちゃんのような番茶なのか
なんでそんな名前なのかは分からないけれど、この鬱々とした気持ちを慰めるにはぴったりな名前だ。
一度気持ちを切り替える事ができると、そこからは面白いぐらい前向きになる。
台所のシンクの中、隙間が無いくらいに詰め込んだ汚れた食器。一人で暮らしているのに、どうしてこんなに洗い物を溜め込めるのだろう。
ほくちゃんは決して汚れ性では無い。普段外に出ている時は、ちゃんと化粧もしてそれなりに小奇麗にしている。
部屋の中も、誰かが来る時はけっこうきれいにまとめている。けれど、気持ちが外に向いていない時や
誰にもかまわれていない時は、なんだかとても無精になってしまうのだ。
もう、やだやだって言わないもーん。
相変わらず言葉は稚拙だが、随分気持ちは変わっていた。きちんと気持ちが変わった頃、丁度タイミング良く湯が沸いた。
さあ、お茶でもいれましょうか。小さな急須の中に茶葉をいれる。かさかさと、茶葉は落ち葉のような音をたてた。
そして沸点から少し引いた温度の湯を急須に注いでいると、玄関の方から物音が聞こえる。
ぴんぽーんと、チャイムが鳴った。

「ごめんください!」
新聞受けの隙間から、声がきこえた。もしかして。急いで急須の蓋をかぶせると、ほくちゃんは台所から玄関へかけていった。
「どなたですか」
ほとんどわかっていたけれど、どうしても確かめたくなる。
「あっ……。えっと、フジヤマです」
恥かしさを抑えているように聞こえる恋人の声。
「今開けるから」
フジヤマですと最後まで名乗りきらないうちに、ほくちゃんは扉をあけていた。
「嵐ぃーー」
玄関に恋人が足を踏み入れた瞬間、ほくちゃんは相手の胸座に激しい頭突きをかました。
「うわっ痛えっ!ちょっ、なんだよほくちゃん」
「もう嵐の馬鹿。ばかっ。ばかっ。ばーか」
「なっ、なんでいきなり馬鹿呼ばわりされるんだよ」
「なんでもない!違う!なんでもないんじゃない!」
「はあ?なに言ってんだかさっぱりわかんねえや」
「わかんなくたっていい!とにかく部屋に入れ!」
どんなに強豪な兵よりも、目の前の恋人には敵わない。ほくちゃんの駄々を、嵐は大人しく受け止める事にした。
4、5日顔を見ていない間に、随分やさぐれているな。それにちょっと……。
「痩せたか?」
腰のくびれに触れた瞬間、ほくちゃんは「ぎゃっ!」と声をあげた。
「もうやだ!変なとこ触るな!」
「触るなって……」
そう言いながらも、嵐の手は休まない。ひょいとほくちゃんを肩の上に担ぐと、嵐は台所へ直行した。
「喉渇いた。茶、飲ませて」
自主トレで10キロ走ってきたばかりで喉がからからだ。ほくちゃんを担いだまま、片手で湯飲みに茶をそそぐと、
嵐は音をたててそれを飲み干した。
「うめっ」
短めに、それでも最大の誉め言葉だと思う。やっと床に足をつけると、正面から嵐の顔を見る。
目が合うと、嵐はまっすぐにほくちゃんの目を見て笑った。

 


「ふーん」
茶を飲んで一息つくと、やっとほくちゃんはいつもの様子に戻っていた。
あんなに激しく出迎えてくれたのが嘘のように、交わす言葉は素っ気無い。
けれど嵐は知っている。照れている時ほど、ほくちゃんはそうなるのだ。
「で、俺がずっと来ないから、ほくちゃんいじけてたんだ」
「いじけてなんか」
「いじけてた。駄目だなあ、大人のくせにくよくよしてさ。折角の休みなんだから、もっとしゃっきとしろよ。
ジョギングとかしたら良いじゃん。なんなら俺、つきあうけど」
「いい」
「いいって、何?一緒に走るってこと?」
「違う」
「じゃあ、なんで嫌?」
「だって嵐、絶対にしごくもん」
「しごく?」
「うん。嵐とやると何でも修行になると思う。私みたいなオバサンには絶対無理」
「はいはい。わかったわかった」

不機嫌そうな声。それでも後ろからそっと抱きしめてみると、ほくちゃんはそれっきり黙ってしまった。
なんて寂しがりやなんだ。俺がいないと、すぐに「よわよわ」になっちまう。
「あのさ、ほくちゃん」
きれいに櫛の通った髪、優しく撫でてやりながら嵐は話を続ける。
「期末テスト終わったら、星見に行こう?さっき淹れてくれたお茶、もっていってさ。
ほくちゃんが良いなら、夜、遅くなっても構わないからさ……」
テントを張って、飯を作って、星をながめてシュラフの中にくるまって。その先はどうなるのか分からない。
けれど、そばにいてあげたら、きっとほくちゃんは素直に笑ってくれるだろう。
「うん……」
こくりとほくちゃんは頷く。よしよしと、嵐はもう一度ほくちゃんの髪を撫でてあげた。

 

fin

 

冬の嵐とほくちゃんの話。あらほく大好き!あらほく大好きな方には、本当に恐縮なんですが
図々しく書かせてもらっています。
嵐は脚フェチだと良いな。
11月のお話は、これでお終い。続きは来月に。いつくか短編を繋げていこうと思います。

 

 

 

 

PR
この記事にコメントする
Name
Title
Font color
E-mail
URI
Comment
Pass Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Secret?
Copyright (C) カオポン All Rights Reserved.
Template design:Fomalhaut // Powered by NINJA TOOLS
[PR] 忍者ブログ // [PR]