「あっ、ここにもいた」
「どこですか?」
「ほらここ」
掌ほどに広がったジャガイモの葉を裏返すと、そこには小さな虫が何匹も張り付いている。
「うーん……いますねえ」
守村くんの顔がちょっと曇る。
「ねっ。ちゃんと駆除したつもりだったんだけど」
つもり、では駄目だった事がこれで良く分かった。決まってこの時期になると、ジャガイモや人参の葉を食い尽くす虫が湧くのを、去年の夏に私は知った。
テントウムシの仲間なので、見た目としてはそんなに気持ちの悪いものじゃない。
ナナホシの成虫を半分くらいに縮めた大きさで、その小さな羽根には同じ様な紋がついている。ヒメカメノコテントウと言う名前の害虫だ。
その害虫達がはびこった跡は、葉の裏をひっくりかえすとすぐにわかる。
葉脈が透けるほど養分や水分を抜き取られて、かさかさになっている。まるでお婆さんの顔みたい。
充分に栄養を補給できなくなったジャガイモの収穫は、あまり期待する事はできない。
「無農薬栽培って難しいですねえ」
首に巻いたタオルで顔の汗をぬぐうと、守村くんは小さく笑った。
「ほんとだね」
他の畦の作物と見比べると、その出来の違いはすぐにわかる。
私たちが立っている畦の所、ここだけは守村くんが特別に手を加えていた場所だ。
今年の4月のはじめ、種芋を地中に埋める時点で、彼は先輩達に無農薬栽培を提案したのだ。
植物に負担をなるべくかけないで、本来持っている自生力を生かして育ててみたい。
それまで、単に花を大きく咲かせようとか、野菜を沢山収穫させようとか、そんな事ばかり考えていた部員達にとって、守村くんの提案はとても新鮮に感じた。
時々ママが家族に向かって、「今日のトマトは無農薬だから良いのよ」って満足気に言う事があるけれど、
何が良いのかはっきりわからない。
安全とか健康とか高価だったからとか、理由を聞くたびに返される言葉は曖昧だ。
ただ、食卓にそれを出した時の、ママの優越に充ちた笑顔を見ると何となく安心するのは確かだ。
無農薬栽培って、本当にできるのかな。
守村くんの提案に「乗っかる」形で、私もちょっと彼の手伝いをさせてもらう事にした。
そして今も、ちょっと苦い思いに浸っていると言うわけだ。
「でもさ、思ったより被害は酷く無いような気がするんだけど。ほら、先輩達のとあんまり背丈は変わらないし」
「地中ではどうですかね」
「なんにもなってないとか?」
「うん……」
「1つぐらいはなってるっしょー。ねっ、1つでもなったら、一緒に食べようね!」
自分で言いながらも、結構お気楽な発言だと思った。案の定、彼は一瞬呆れたような顔をした。
「うらやましいな」
「なにがー?」
ジャガイモから3つ隔てた畦に移動すると、私はトマトを一房もいだ。
「小波さんみたいに、僕もおおらかな気持ちで植物に接していかないといけないなあって、反省してたんです」
「おおらかと言うか、大雑把ってことよ」
もいだばかりのトマトは、かすかに青臭く、まだ熟しきれていない果肉は硬さを残している。
「守村くーん!これ、おやつにしようー」
今から投げるねー。
大きな身振りでアピールすると、守村くんはちょっと慌てた。
「あっ、あっ!ちょ、ちょっと待って」
かけていためがねをサッと外して、タオルでレンズを拭きだす守村くん。
いや、レンズなんて拭かなくて良いから、ちゃんとキャッチして。
「いっくよーー」
放り投げた青いトマトは畦を3つ軽々と越えていった。
※創作復帰に向けてリハビリ中ですー。数年前を思い出しながら、一日数行でも書き続けてみようと
「どこですか?」
「ほらここ」
掌ほどに広がったジャガイモの葉を裏返すと、そこには小さな虫が何匹も張り付いている。
「うーん……いますねえ」
守村くんの顔がちょっと曇る。
「ねっ。ちゃんと駆除したつもりだったんだけど」
つもり、では駄目だった事がこれで良く分かった。決まってこの時期になると、ジャガイモや人参の葉を食い尽くす虫が湧くのを、去年の夏に私は知った。
テントウムシの仲間なので、見た目としてはそんなに気持ちの悪いものじゃない。
ナナホシの成虫を半分くらいに縮めた大きさで、その小さな羽根には同じ様な紋がついている。ヒメカメノコテントウと言う名前の害虫だ。
その害虫達がはびこった跡は、葉の裏をひっくりかえすとすぐにわかる。
葉脈が透けるほど養分や水分を抜き取られて、かさかさになっている。まるでお婆さんの顔みたい。
充分に栄養を補給できなくなったジャガイモの収穫は、あまり期待する事はできない。
「無農薬栽培って難しいですねえ」
首に巻いたタオルで顔の汗をぬぐうと、守村くんは小さく笑った。
「ほんとだね」
他の畦の作物と見比べると、その出来の違いはすぐにわかる。
私たちが立っている畦の所、ここだけは守村くんが特別に手を加えていた場所だ。
今年の4月のはじめ、種芋を地中に埋める時点で、彼は先輩達に無農薬栽培を提案したのだ。
植物に負担をなるべくかけないで、本来持っている自生力を生かして育ててみたい。
それまで、単に花を大きく咲かせようとか、野菜を沢山収穫させようとか、そんな事ばかり考えていた部員達にとって、守村くんの提案はとても新鮮に感じた。
時々ママが家族に向かって、「今日のトマトは無農薬だから良いのよ」って満足気に言う事があるけれど、
何が良いのかはっきりわからない。
安全とか健康とか高価だったからとか、理由を聞くたびに返される言葉は曖昧だ。
ただ、食卓にそれを出した時の、ママの優越に充ちた笑顔を見ると何となく安心するのは確かだ。
無農薬栽培って、本当にできるのかな。
守村くんの提案に「乗っかる」形で、私もちょっと彼の手伝いをさせてもらう事にした。
そして今も、ちょっと苦い思いに浸っていると言うわけだ。
「でもさ、思ったより被害は酷く無いような気がするんだけど。ほら、先輩達のとあんまり背丈は変わらないし」
「地中ではどうですかね」
「なんにもなってないとか?」
「うん……」
「1つぐらいはなってるっしょー。ねっ、1つでもなったら、一緒に食べようね!」
自分で言いながらも、結構お気楽な発言だと思った。案の定、彼は一瞬呆れたような顔をした。
「うらやましいな」
「なにがー?」
ジャガイモから3つ隔てた畦に移動すると、私はトマトを一房もいだ。
「小波さんみたいに、僕もおおらかな気持ちで植物に接していかないといけないなあって、反省してたんです」
「おおらかと言うか、大雑把ってことよ」
もいだばかりのトマトは、かすかに青臭く、まだ熟しきれていない果肉は硬さを残している。
「守村くーん!これ、おやつにしようー」
今から投げるねー。
大きな身振りでアピールすると、守村くんはちょっと慌てた。
「あっ、あっ!ちょ、ちょっと待って」
かけていためがねをサッと外して、タオルでレンズを拭きだす守村くん。
いや、レンズなんて拭かなくて良いから、ちゃんとキャッチして。
「いっくよーー」
放り投げた青いトマトは畦を3つ軽々と越えていった。
※創作復帰に向けてリハビリ中ですー。数年前を思い出しながら、一日数行でも書き続けてみようと
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