忍者ブログ
.
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

※「あらほく」とは、あらさーの「ほくちゃん」と言う女の子と嵐さんの恋のお話です。
……と、とってもファンタジーな話です。

寛大な気持ちで読んでくださいな。



短編その1   「みやげもの」


もうすぐだ。
それまで読み進めていた漫画本をぱたんと閉じると、ほくちゃんはテレビの上に置いてある時計を見つめた。
時計台を象った稚拙な創りのそれは、もうすぐここにやってくる予定の恋人からの、旅の土産だった。
あまり美味しくないバター飴とキタキツネのバッチ、そしてこの目覚まし時計。
今から1年と少し前、ほくちゃんはこれをもらった。

「これなんだけど……。ほくちゃんは、ちょっと寝起きが悪いからさ。だから、これでもいいんじゃねえかって、さ」
そう言って、少し照れ笑いを浮かべながら、彼はほくちゃんに土産の包みを渡した。
その時彼は、17の誕生日を迎えたばかりだった。
青少年というより、頭に「青」と言う文字をとっぱらってもおかしくないほど、彼は若い。
そんな、自分より遥かに年下の彼が、自分の為に選んだ土産。
ほくちゃんは、それを見た瞬間、ただ「ふーん」と、だけ言った。
そして中身を確認することもなく、不機嫌そうな顔をして台所の方へ逃げた。
恥かしかったのと、嬉しかったのと、色んな気持ちが溢れそうになったのだ。
だけど、それをむやみに相手に披露してはいけない。
男なんて、こっちが惚れているのを知ったらすぐに態度を変えるから。
ましてや向こうは、自分よりもずっと若い。そんな彼が年上の自分に愛想を尽かすのは時間の問題だ。

嬉しいことなのに、すぐに悲観的に物を考えて守りに入ってしまう。
数ある経験の中で得た、ほくちゃんなりの精一杯の駆け引きだ。
台所へ逃げたほくちゃんは、何食わぬ顔を装いながら、若い恋人の為に湯を沸かした。
そして静かに茶を一服淹れると、無愛想な顔をして茶をふるまう。
「ほくちゃんのお茶って、やっぱ、すげえ……」
17歳なりの幼い言葉だった。
けれどほくちゃんは、その言葉を特別な想いで聞いていた。恋人の、ひとまわりも大きな胸の中で。

今日は煎餅にしようかな。
立ち上がると、ほくちゃんは台所へ向かった。やかんに水をくべ、火をかける。そしてこぶりな湯飲み茶碗を2つ。
旅の土産物は、ここにも健在していた。修学旅行は、ガラス細工で有名な北の土地だったはず。
なのにどうしてか彼は、湯飲み茶碗を2つ持ってきた。
落としたらすぐにかけてしまいそうな焼き物の湯飲みに、自分で染付けを施したもの。
友人達と遊びのつもりで作ったらしいが、できあがった作品はすこぶる真面目な作りだった。
ひとつには、「ほくちゃん」。そしてもうひとつには恋人の名前である「嵐」。寿司屋の湯のみの様に立派な筆文字だ。

「なんで、名前をわざわざ書いたの?何か絵でも入れたら良かったのに」
こんなにでっかく「ほくちゃん」なんて書かれたら恥かしいよー。
最後の部分は心の中でぼやいた。
どこまでも無愛想なほくちゃんに対して、それでも彼は何も怒らなかった。
しかもちょっと嬉しそうな顔で、こう答えたのだ。
「うん。なんかさ、夫婦茶碗って感じがしてさ」

それ以来ほくちゃんは、彼が家を訪ねるたびに、この茶碗で茶を淹れることにしている。
ちょっと良い茶を使って丁寧に淹れて、決まって不機嫌そうに出している。
そしてほくちゃんが淹れてくれたお茶を、彼はごくごくとがぶ飲みするのだ。

「嵐、まだかなあ……」
うっかり独り言を漏らしてしまったほくちゃん。誰もいない部屋の中でぽっと、顔を赤らめるのであった。

 


今日のおはなしは、これでおしまい。

 



PR
この記事にコメントする
Name
Title
Font color
E-mail
URI
Comment
Pass Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Secret?
Copyright (C) カオポン All Rights Reserved.
Template design:Fomalhaut // Powered by NINJA TOOLS
[PR] 忍者ブログ // [PR]