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-----まったく。おまえさんはやる事が危なすぎる。どうして人間なんかに興味を持つんだろうねえ……。
-----だって、あの人。悪そうに見えなかったんだもん。
----なんだい、「あの人」って。ああ、やだやだ。
     人間にそんな敬称をつけるなんて、おまえさんどうかしてる。
----優しかったのよ。あたしをぎゅっと潰そうなんてしなかった。あたしの命を救ってくれたんだもの。
----単なる気まぐれだよ。あいつらのやることなんて、いつも気分次第だ。
      とにかくあいつらは物欲の塊だからね。気になったものは、まずは捕らえてみる。
  捕らえ方も酷いもんだ。あの「手」とか言う大きなものを使ってぎゅーっとつかむ奴もいれば、 
  「網」とか言う道具で捕らえる奴もいる。
  あたしなんて、あいつらにさんざん追い掛け回されたせいで、このとおり羽がボロボロさ。
----だけど、あの人……。本当に優しかったよ。
----好い加減にしな。人間に心を許した虫はあっという間に命を落とすってことになるんだ。
  今度この話をしたら、ただじゃおかないよ!

いつもは世話好きなおばちゃんとして慕っていたけれど、今日のおばちゃんは、いちいち私の心にひっかかった。
分かってる。おばちゃんの言っている事はもっともだと思う。 
たくさんいた私の兄弟たちも、ほとんどは人間の子どもとやらに連れて行かれてしまった。
勝気な上の兄さんは、子どもの手をめがけて強烈な汁をかけてやったら、
その瞬間に空中へ弾き飛ばされてしまった。
命は取り留めたものの、あれ以来兄さんは蓬(よもぎ)の葉っぱにくるまって、
ずっとずっと、殻に閉じこもっている。
だけど……。
----あの人、本当に優しかったんだもの。
私は心の中でもう一度呟いた。確かに、凄く怖かった。本当に怖かった。
恐る恐る目をあけてみたら、すぐ近くに人間の顔があって、思わず漏らしそうになった。
外敵に対する最大の防御として、私達は黄色い体液を分泌する。
その効果は絶大で、空中から攻撃してくる鳥や鋭い刃を持つ蟷螂(かまきり)達からも敬遠されている。
だけど、兄さんみたいにはなりたくない。
気を失いそうになるのを必死にこらえると、私はじっとその視線に耐えた。
不思議な感じだった。顔の中心に蒼い水晶のような光。あれが人間の眼なのだとわかった。
造りは私達のとまったく違うものなのに、どうしてか、嫌悪できない。
あの蒼い色が攻撃的に見えなかったからかもしれない。
あの眼に見つめられると、とても優しい気持ちになるのだ。
そして、人間の手は、とてもやわらかかった。
いつもねぐらにしているアブラナの花より、もっとふかふかで温かい。
もしかすると、囚われてしまうことだって十分ありうるのに、私は何も動かなかった。


どれぐらい時が経ったのだろう。
ふっと小さな声が聞こえた。

------きれいな色ですね。

はっと、私の心が大きく揺れた。それは今まで聞いたことの無い様な優しい声。
きれいな色ですねって、一体何に向かって話しかけているのだろう。
ざわざわと乱される、この心地。それはとても気持ちが良かった。
もっと知りたい。自分の命を守るより、好奇心の方がついに勝ってしまった。
とじきっていたからだをのばして、私はもぞもぞと動き始める。

------あっ、動きました。

その瞬間、ため息と共にその言葉が聞こえてきた。そうだ。この人間は、私に興味を持っている。
大丈夫。きっと、この人間は私に危害を与えないはず。自分の直感を信じて、私は思いのままに動いた。
モンシロのおばさんの様に見せれるような羽は無い。
近場を移動する為に広げる羽は、どの虫達よりも地味なもの。
何の取り柄も見栄えもしない私に、この人は「きれいな色」と言ってくれた。
見せたい。もっと、私を見て欲しい。
こんな感情が自分にあったのを始めて知った。蒼い眼の人は、その後も暫く私を眺めてくれた。
きっと喜んでくれたのだろう。時折、あの蒼い眼がまぶしそうにとじることがある。
そして、その後は必ず私の体に触れてくる。
少しも嫌な気持ちになれなかった……。




---ったく、おばさんったら。散らかすだけ、散らかして……。
我に返ると、私はねぐらのまわりの片付けを始めた。アカシアの蜜にアブラナの油脂。
モンシロのおばさんと違って、私の主食は本来肉食だ。けれど、なぜか今日は何も喉が通らなかった。
いつもなら物足りなく思うアカシアの蜜が、今日はとても心に染みた。
もしかしたらこれを機に、私も菜食主義に変わってしまうかもしれない。
----また、会えるのかしら。
明日になったら、またあの場所へ行ってみたい。今度はもっと、あの人と関わってみたい。
クローバーの葉っぱで床を拭いていると、ふと光るものを見つけた。砂よりも細かく、さらさらとしている。
おばさんの麟粉(りんぷん)だ。
私の言動に憤慨した時に落としたものなのだろう。
葉の隙間に入り込んだ月の光に照らされて、それはきらきらと妖しく光った。
----きれい。
思わず手にとると、私は自分の体に撫で付けてみた。
どうかしら。
少しはきれいに見えるのかしら。
私はあの人の事を想った。

 

 

つづく。


昨日のお話の続きです。「えっ?こんな話読んでくれてるんだー」とめちゃめちゃ驚いております。
虫ですよ。虫ネタでGS書いちゃうなんて、どうなってんだと思いますが、
もたこさんのテントウムシちゃんがあたいの心を突き動かしてくれます。
がちゃさんの凄く素敵なあの絵の部分は、この話の続きで使わせていただこうと思います。
ちなみにちーちゃんは、虫に対しても敬語を使うと思います。
それも片言で。ひーー、片言萌えなんですよー。

ついったー、拍手などで熱いメッセージと感想ありがとうございます。
もう少し、この話を続けさせてくださいませ。

 

そして、絵チャの思い出。
茅さんが一度落ちまして、その後入り直してこられたのですが、「桜井 茅」と名をあたらめられて。
そこから先は来られる人みんな、まるでしきたりに乗るような、これが礼儀だといわんばかりに
とんでもない名前で来て下さいました。
今回、うっかり文字ログをとるのを忘れてしまったので、
参加者全員のあらぶる名前を思い出せないでいて
ちょっと苦しんでいるのですが、
一番すごかったのか「プリストファー・ウェザー・フィールド」と名乗ってきたプリさん。
普段「プリさん」と簡略して呼んでいるのに、いきなりその名前で来たので、会場皆で爆笑。
おまけに文字多すぎて、チャットの名前欄に全部おさまりきれないし。
そんなプリさん。その名前を拝借したからには敬意を込めてと、素敵なくーちゃんを描いて下さいました。

purisan.gif
ええなあ。
桜じゃー。
プリさん、絵チャ来て下さるとほんと面白いのよねえ。

 

 
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