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「あ、そうだ。これだ!これが良い!」
バケツの中を覗くと、若い店主は思いついたような顔をして一輪の花を選んだ。
「これ…ですか」
でも、あまり日持ちしませんよ。鋏をいれながらそう伝えると、すぐに「大丈夫」と声が返ってくる。
「うん。大丈夫。" あの人”は直に来るから」

そうですか。ならば仰るとおりに。
予めこちらから用意した花器は使う事はなかった。
その代わり、彼は美しい器を選んだ。
ふと気を許した瞬間に手のひらを切ってしまいそうな程繊細なカットのバカラ。
すぐにでも頭を垂れてしまいそうなその小さな花の為に。

花一輪のお礼にと、淹れてもらった一杯の珈琲。
猫舌の僕の為に、いつも温め(ぬるめ)にいれてくれる珈琲はマンデリンの香り。
今宵はどんなゲストを迎えるのかな。随分冷えたそれを、なおも口元で冷ましていると、彼は笑う。
そして、「今日は、その人のために店を貸切にするんだ」と、言うその顔が少し寂しそうに見えた。

 

 


春には、春の。夏には、夏の。
野原や道端に咲いている花を少しだけ頂いて、小さな花器に生けてみるのが、僕の趣味。
花の他には、雰囲気の良さそうな苔を集めて苔玉を作ってみる事も。
植物と触れることが好きな僕にとって、これは趣味の一環であるのだけど、幸いにも僕のこんな変わった趣味を大事に拾ってくれる人がいた。
ジャズバー・カンタループの主人、益田義人氏。
たぶん年齢は僕よりも一回りほど上だろう。高校の時の恩師が、彼と竹馬の友らしい。
恩師よりも少し若く見えるのは、人好きのする笑い皺がそう思わせるのだろう。
話をしていると、僕との年齢差を感じさせないほど彼は気さくだ。だけど、彼の元を訪ねてくる顧客は、
皆素敵に枯れている。僕もいつか、あんなふうに枯れてみたいと憧れる人ばかりだ。
だから、今日のお客の事が気になるのは本心だ。

ちなみに益田氏が僕の趣味に気づいたのは、ひょんな事からだった。
丁度大学で、新しい酵母の開発研究を行っていた時。たまたま教授と一緒に店を訪れた時、
カウンターの隅に置かれた花瓶の花に僕が少し手を加えたのを、彼が目に留めていたからだった。
花を長く生かすために、「水揚げ」をさせるのは一般的な常識だけど、僕は植物の種類ごとに
鋏の入れ方を知っていた。どのあたりに刃を入れるかで、細胞を殺す事無く活かすことができる。
自分の中ではそれが何でもない事だった。だけど彼は、僕の行為に関心を抱き、向こうから心を開いてくれた。
開いてくれたからには話をしないわけにもいかず、僕は自分の嗜みを教えた。
それ以来、僕は週に一度ほど、彼の店を訪ねては好きなように花を活けるようになった。
益田氏曰く、僕はこの店の専属花屋らしい。


ゆっくりと時間をかけて味わっているうちに、開店の時間が迫ってきた。
カウンターの奥、誰もわからないぐらい小さな神棚に向かって益田氏は、今日も拍手(かしわ手)を打つ。
いつになく長い祈りを捧げているように見えて、僕は少し緊張する。
もう帰らないと。そう身支度を済ませて席をたつと、彼と視線があう。「じゃあ、また」と会釈をすると、
彼はうんうんと頷いた。
「いいよね、守村くん。今日の花」
「ありがとうございます。シロバナタンポポって言います」
「ああ、久しぶりに見た気がする」
「今では殆ど見かけませんからね」
「うん。ずっと前、中央公園の噴水あたりで一株だけ咲いてるのを見たんだよな。
ちなみに、その場所を教えてくれたのが、今から見えるお客さんでさ。
いつもは難しい政(まつりごと)ばっかりやってるんだけどさ、全然向いていない人でね。
君みたいに純粋に植物を愛でていれば、それだけで幸せな人でさ。
随分お疲れみたいだから、君の一輪で随分慰みになるよ」
「はあ…」

もっと話を聞きたかったけれど、僕はそこで店を出た。何となくすぐにでもここを立ち去ったほうが良いような気がしたのだ。

僕の直感は当たっていたようだ。
店の前には黒塗りの車が待機していた。窓は分厚いカーテンで覆われ、主の顔は何もわからない。
どんな政をしているのか少し気になったけれど、僕はこれ以上関わらないことに決めた。
花が好きだった。それだけで良いと思うのだ。
「新聞に載るような人なのかな…」
夜道を歩きながら、僕はぽつりと呟いた。

 


fin
千秋楽絵チャで、さつきさんが描いて下さった素敵な絵に、この話を添えて。

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ありがとうございます!。・゚・(ノД`;)・゚・。
2010/06/28(Mon) res
カオポンさん~~~~~!!!!
お邪魔したら、なんとなんとっ!
素敵になごむSSが!
それも、絵ちゃでワタシがふざけ半分で描いたアノ絵に!

そう、そうですよね、政のアノお方は剥いていないと思います(*^m^*)
退かれて残念な反面さぞかし、ホッとしているのではないでしょうか?
次の政のKさん、大丈夫かな・・・。
花屋ではなくて、守村クンから花を調達するのは、さすが、益田の人あしらいが上手く、思いやりのところでもあるように思いました。

しかし、恐縮です。
あんなふざけた絵にこんなSS作ってくださったなんて。
貴重なお時間を割いてくださって本当にありがとうゴザイマス。

フェスが終わってお2人ともゆっくりしてらっしゃるのでしょうか?
GS3は手に入れましたか?
ワタシはまだチョット先になりそうです。
さつきさん、ありがとう!
2010/06/29(Tue) res
こんにちは~、さつきさん。
家のことで色々ありまして、暫くPCから遠のいていたのですが、
久しぶりにブログを覗いてみたら、さつきさんからのコメントが。

どうもありがとうございます。

本当は祭り期間中に話を書き上げたかったのですが、遅くなりまして。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

今回のお祭り、素敵な驚きでいっぱいでした。
中でも特に驚いたのが、さつきさん達が描いて下さった、あの一枚の絵。
もう、ほんと泣けましたねーー。

さつきさんをはじめ、あの作品にたずさった方々の優しい気持ちが、本当に嬉しかった。
本当にありがとうございました。

また来年も、続けさせていただきたいと思います。
その時は、よろしくお付き合い下さいね。


そうそう、イカぽんのイラストに、暖かい言葉をありがとうございました。
「イカポンさんのイラストサイト立ち上げるべきですよ」と仰って下さった言葉を、そのまま彼に伝えました。
イカぽんは今、暇な時間を見つけては、こつこつと、何か描いている様です。
GSでは無いのですけどね。
作品が溜まったら、サイトなり、ブログなり、何らかの形でやってみるそうです。

さつきさんに背中を押してもらいました。
今までは、自分の作品を発表しようとは全く考えていなかった人なので。

また、発表できる様になりましたら、お知らせしますね。

ではでは!

あっ、私もGS3は、まだですよ~。

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