子どもの頃、一度だけ生き物を飼った。子どもと言ってもそんなに昔ではない。今から5年前だ。
蝉やザリガニ、カブト等は当時の自分としては飼育の対象では無かった。遊びで捕まえることはあっても、捕まえた時点でその目的は達成していた。それよりも図鑑を広げて動かない物を眺めている方が好きだった。
なのに、あれだけはどうしても飼ってみたかった。それも絶対に番(つがい)で欲しかった。
親に言うと、最初のうちは随分反応が厳しかった。
どうして二匹なの?それも番じゃないといけないなんて。増えたらどうするの?他所の所で聞いたけれど、とんでもないぐらい増えるらしいわよ。ちゃんと面倒見れるの?玉緒……。
どう言われ様と、僕はあれを飼いたい。飼っても良いと言ってもらえるまで、絶対に口をきいてやるものか。
家で叱られるようなことは一度も無い。休む間も無いほど塾通いで予定を勝手に埋められても、一度も反抗しなかった僕は、この時はじめて親に抵抗した。僕の頑な態度に、親は勿論のこと、少し年の離れた姉も驚きを隠せない様子だった。
反抗期なんだよ、タマちゃんは。
のんきな口調で姉はそう親に説明しているのを聞いたけど、僕は聞こえないふりをした。
そしてむっつりと黙ったまま、僕は一冊の本を読んでいた。
きっかけはこの小説からだ。作者の思春期の頃を書いたその話が、僕の心を強く突き動かした。
あれを飼うと、本当にそんな気持ちになるのか。
そんなに、体のどこかが、それまで知らなかった感覚に陶酔してしまうのだろうか。
知ってみたかった。作者と同じものを飼って、その気持ちをどうしても共感したかったのだ。
結局、僕の主張は何とか聞き入れてもらうことができた。
ただし、望まない中学受験をさせられて、きちんと合格する事を条件としてだ。
当時親友だった子は、地元の中学に進学することが決まっていた。
親友をとるか、それとも受験をするか。結論を決めるのに、あまり時間はかからなかった。
その日から徹夜で勉強をして、僕は合格を決めた。そして合格した翌日、僕は念願のそれをつがいで飼い始めた。
そして、あれほど飼うことを反対していた親が、飼いはじめたら一番可愛がっていた。
つがいなのに、「うー子」と「みー子」なんて変な名前を勝手につけて、我が家の中で一番新鮮な野菜を与えていた。
名前なんてどうでも良かった。とにかく、話の中にでてきたあの描写を、この目で見たい。
赤い眼に垂れた耳。
----タマちゃん、どうしよう。凄く可愛いよ。私の手から餌食べるようになったよ。
姉も親と同様に可愛がる。どうしようと聞かれても、僕は何も答えなかった。
可愛くて結構。それよりも、あの描写を早く見せてくれ。
ゲージの中の二匹に向かって、僕は心の中でそう命令する。だけど奴らは黙々と、与えられた物をぼりぼりと齧っているだけだった。
もしかして、番(つがい)ではなかったのかもしれない。
増殖するのを恐れて、親は初めから同性を二匹用意したのかもしれない。
そう疑う様になったのは、飼い始めてから二月した時だった。
期待していたあの描写が、何も再現されないのに随分やきもきしていた。
ひょっとしたら自分が学校に行っている間に、あれをしているのかもしれない。
そう思うと、登校するのを辞めたいとさえ思うようになってしまった。
やがて季節は梅雨時を迎え、蒸し暑くなってくると、僕は新しい問題を抱えることになった。
奴らの匂いが部屋の中で篭るようになったのだ。
犬や猫に比べれば、ずっと控えめかもしれない。
だけど奴らは独特な匂いを僕の限られた空間に放つ。
しだいにカタカタとゲージを奮わせる音も耳につくようになり、僕はすっかり奴らとの同居が嫌になってしまったのだ。
-----だから言ったじゃない。あれは外で飼うものなのよ。ほんと、タマちゃんは考えが足りないって言うか。
部屋で飼う事を断念した僕に向かって言った姉の言葉、僕は今でも忘れられない。
高校を卒業して、急に大人っぽくなった姉の顔。
口調は相変わらずおっとりとしているが、その表情は大人の女性そのものだった。
口紅を引いた口元が凄く卑猥に感じて、僕は思わず顔を背けた。そして、僕が心の奥で求めていた憧れや希望が、姉の一言で一瞬に消えてしまった様な気がした。
思わず僕は、姉の頬を手ではたいてしまった。物心がついた時から、喧嘩なんて一度も無かったのに、その時はじめて、姉を酷く憎んだ。
今思うと、あんなに憎む事では無いと思うのだが、あの時はどうしようも無かったのだ。
物語に描かれたあの部分は、僕にとって深い情緒を持っていた。
あの情緒に触れた事で、僕はこれからどう、その情緒と向き合っていかなくてはならないのか、真剣に悩んでいた。
拒絶しようとすればするほど、それは強く僕の心を魅惑する。
そして、その想いは体の一部にも強く影響を与える。
あの一件以来、僕と姉は距離を置くようになった。僕はもう、子どもではない。姉は、そう悟ったのだ。
程無くして奴らは、家の外で飼われる様になった。ただし、野良猫やカラスに襲われないようにと、小さな車庫の隣にゲージは置かれた。
僕達の、それまでの過剰な可愛がりから解放されて、奴らははじめて自由な雰囲気を味わっていた。
ただし狭いゲージの中に閉じ込められてはいるけれど、それまでよりはずっと開放感を感じたに違いない。
奴らの眼は急に輝きはじめ、狭い空間の中を忙しく動き回るようになった。
白い毛と茶色の毛が、ゲージの隙間から毛埃の塊となって、幾つも外へ出されていく。
何かが変わる。僕は漠然と、そう予感した。
僕の予感が当ったのは、それから数日後。期末テストが始まって、いつもより早く家に戻ってきた時だった。
前の日から降り続く雨が車庫の屋根を伝い、地面に小さな穴を規則的に構成する。
ずぶぬれの体のまま、自転車を車庫に入れようとしたとき、それは起こった。
ゲージは銀色の格子。7月の生ぬるい雨粒が数滴伝っていた。何気なく覗いた囲いの中、奴らは僕から完全に背を向けて丸いからだを震わせている。
あれは確かウー子の方だった。ピーターラビットを思わせる薄茶色の長い毛。
ミー子の体を背後からしっかりと押さえつけ、かくかくと小刻みに尻を振る。
たっぷりと肉のついた尻はミー子の真っ白な尻にぴたりと合わさっている。
時間にして1分ぐらい。
ウー子は紛れも無く雄だった。わずかな隙を見つけて逃げようとしたミー子の耳を齧ると、更に激しく尻を振る。
姉さんや母さんを和ませた愛らしさは何処にもなく、真っ赤に燃える眼でミー子を支配する。
「チッ・チッ」
突然、ミー子の鳴き声が聞こえた。鳴かない動物だと信じていた自分は、ミー子の一声で相当なショックを受けた。
それは助けを求めているようには聞こえなかった。この、特別な行いをしている時にだけミー子は声を漏らすのかもしれない。
濡れたような目で、ミー子はどこかを見つめていた。
これか。
僕は心の中で唸った。
これが、あの風景だったのか。
津軽に生まれた面長の男は、頬杖をつきながらアンニュイな表情で、この情景を眺めていたのだろうか。
そしてひっそりと胸をときめかせていたのだろうか。
クライマックスを迎える頃には、ウー子はもう、一羽の兎では無くなっていた。
兎の面を借りた、獣の姿だ。
僕はウー子が力尽きるまで見届けると、部屋に行った。僕もいつかは、ウー子と同じ様な事をするのだろうか。
できればミー子の様な、色の白い子だと良い。尻の形がきれいな子だと良い。
その夜僕は、もういちどあの本を読んでから眠りについた。
たかが兎の交尾。だけど、僕はあの話を読むたびに胸がドキドキする。
そしてやっと自分の目で確かめることができたのだけど、僕は彼ほど興奮することは出来なかった。
彼の想いを共有できるようになったのは、つい最近の事。兎を飼い始めてから随分経っている……。
笑うとぽちっとえくぼのある、色白の女の子。
小柄で痩せているけれど、水着を着せてみたら、色んなところが程よく膨らんでいた。
僕が好きになった人「小波みなこ」は、そんな感じの子。
僕は見栄っ張りだから、極力彼女には自分の気持ちを見せないようにしている。
本当は手を繋いでみたいし、できたらキスだってしてみたい。
叶うのなら、僕もウー子の様に彼女を背後から押し倒したい。
そして激しく腰を振ってみたい。
だけど僕は耐えてみせる。彼女の前では常に礼儀正しく優しい先輩でありたい。
学習で遅れている部分があったら、余裕を持って教えてあげたい。
「紺野せんぱい」
ほら、また、あの甘い声で僕の名前を呼んでいる。
全く君は、さっきから隙だらけだ。どうしてそんなに丈の短いスカートを履いて、僕の前にいるんだ。
どうしてそんなに胸のあいた服を着ているんだ。
どうしてそんなに……魅力的なんだ。
「あのね、みなこさん」
彼女がくしゃみをしたのを切欠に、僕は羽織っていたカーディガンを脱いだ。
「もっと温かいのを着てきて下さい」
僕はそっと彼女の背中にカーディガンをかけた。
「だって……」
「そんなんじゃ、風邪ひくよ」
できるかぎり慈愛を込めて、僕は彼女を戒める。
「僕の姉さんが言っていたけど、女の子はその……あんまり腰を冷やすといけないって」
「どうして?」
本当にわからないと言う感じで僕を見つめる君。僕はやれやれとため息をつく。
「どうしてって、その。ほら、冷やすと赤ちゃんができにくいとか……聞いたことない?」
「……あっ」
やっとわかったのか、顔を赤らめると、羽織ったカーディガンのボタンをとめようとする。
「ねっ。もっと自分の体を大切にしなよ」
そうだよ。僕のためにもね。
いつか君と子どもを作るためにも、大切にして欲しいんだよ。
僕はきっと、あの兎と同じぐらい、君を責め続けるよ。だから…ね。
小柄な体の君は、僕の白いカーディガンをまとうと、更に可愛さを増す。
まるで兎の様だ。
fin
玉緒ちゃん。クロ玉緒ちゃん。
ちなみに、玉緒ちゃんが兎を飼いたいと触発された物語、タイトルは「思ひ出」。
誰の作品かは、ぐぐってみてw
私はこの作品を14の頃に読んで、ものすごく悶々としたのを覚えています。
蝉やザリガニ、カブト等は当時の自分としては飼育の対象では無かった。遊びで捕まえることはあっても、捕まえた時点でその目的は達成していた。それよりも図鑑を広げて動かない物を眺めている方が好きだった。
なのに、あれだけはどうしても飼ってみたかった。それも絶対に番(つがい)で欲しかった。
親に言うと、最初のうちは随分反応が厳しかった。
どうして二匹なの?それも番じゃないといけないなんて。増えたらどうするの?他所の所で聞いたけれど、とんでもないぐらい増えるらしいわよ。ちゃんと面倒見れるの?玉緒……。
どう言われ様と、僕はあれを飼いたい。飼っても良いと言ってもらえるまで、絶対に口をきいてやるものか。
家で叱られるようなことは一度も無い。休む間も無いほど塾通いで予定を勝手に埋められても、一度も反抗しなかった僕は、この時はじめて親に抵抗した。僕の頑な態度に、親は勿論のこと、少し年の離れた姉も驚きを隠せない様子だった。
反抗期なんだよ、タマちゃんは。
のんきな口調で姉はそう親に説明しているのを聞いたけど、僕は聞こえないふりをした。
そしてむっつりと黙ったまま、僕は一冊の本を読んでいた。
きっかけはこの小説からだ。作者の思春期の頃を書いたその話が、僕の心を強く突き動かした。
あれを飼うと、本当にそんな気持ちになるのか。
そんなに、体のどこかが、それまで知らなかった感覚に陶酔してしまうのだろうか。
知ってみたかった。作者と同じものを飼って、その気持ちをどうしても共感したかったのだ。
結局、僕の主張は何とか聞き入れてもらうことができた。
ただし、望まない中学受験をさせられて、きちんと合格する事を条件としてだ。
当時親友だった子は、地元の中学に進学することが決まっていた。
親友をとるか、それとも受験をするか。結論を決めるのに、あまり時間はかからなかった。
その日から徹夜で勉強をして、僕は合格を決めた。そして合格した翌日、僕は念願のそれをつがいで飼い始めた。
そして、あれほど飼うことを反対していた親が、飼いはじめたら一番可愛がっていた。
つがいなのに、「うー子」と「みー子」なんて変な名前を勝手につけて、我が家の中で一番新鮮な野菜を与えていた。
名前なんてどうでも良かった。とにかく、話の中にでてきたあの描写を、この目で見たい。
赤い眼に垂れた耳。
----タマちゃん、どうしよう。凄く可愛いよ。私の手から餌食べるようになったよ。
姉も親と同様に可愛がる。どうしようと聞かれても、僕は何も答えなかった。
可愛くて結構。それよりも、あの描写を早く見せてくれ。
ゲージの中の二匹に向かって、僕は心の中でそう命令する。だけど奴らは黙々と、与えられた物をぼりぼりと齧っているだけだった。
もしかして、番(つがい)ではなかったのかもしれない。
増殖するのを恐れて、親は初めから同性を二匹用意したのかもしれない。
そう疑う様になったのは、飼い始めてから二月した時だった。
期待していたあの描写が、何も再現されないのに随分やきもきしていた。
ひょっとしたら自分が学校に行っている間に、あれをしているのかもしれない。
そう思うと、登校するのを辞めたいとさえ思うようになってしまった。
やがて季節は梅雨時を迎え、蒸し暑くなってくると、僕は新しい問題を抱えることになった。
奴らの匂いが部屋の中で篭るようになったのだ。
犬や猫に比べれば、ずっと控えめかもしれない。
だけど奴らは独特な匂いを僕の限られた空間に放つ。
しだいにカタカタとゲージを奮わせる音も耳につくようになり、僕はすっかり奴らとの同居が嫌になってしまったのだ。
-----だから言ったじゃない。あれは外で飼うものなのよ。ほんと、タマちゃんは考えが足りないって言うか。
部屋で飼う事を断念した僕に向かって言った姉の言葉、僕は今でも忘れられない。
高校を卒業して、急に大人っぽくなった姉の顔。
口調は相変わらずおっとりとしているが、その表情は大人の女性そのものだった。
口紅を引いた口元が凄く卑猥に感じて、僕は思わず顔を背けた。そして、僕が心の奥で求めていた憧れや希望が、姉の一言で一瞬に消えてしまった様な気がした。
思わず僕は、姉の頬を手ではたいてしまった。物心がついた時から、喧嘩なんて一度も無かったのに、その時はじめて、姉を酷く憎んだ。
今思うと、あんなに憎む事では無いと思うのだが、あの時はどうしようも無かったのだ。
物語に描かれたあの部分は、僕にとって深い情緒を持っていた。
あの情緒に触れた事で、僕はこれからどう、その情緒と向き合っていかなくてはならないのか、真剣に悩んでいた。
拒絶しようとすればするほど、それは強く僕の心を魅惑する。
そして、その想いは体の一部にも強く影響を与える。
あの一件以来、僕と姉は距離を置くようになった。僕はもう、子どもではない。姉は、そう悟ったのだ。
程無くして奴らは、家の外で飼われる様になった。ただし、野良猫やカラスに襲われないようにと、小さな車庫の隣にゲージは置かれた。
僕達の、それまでの過剰な可愛がりから解放されて、奴らははじめて自由な雰囲気を味わっていた。
ただし狭いゲージの中に閉じ込められてはいるけれど、それまでよりはずっと開放感を感じたに違いない。
奴らの眼は急に輝きはじめ、狭い空間の中を忙しく動き回るようになった。
白い毛と茶色の毛が、ゲージの隙間から毛埃の塊となって、幾つも外へ出されていく。
何かが変わる。僕は漠然と、そう予感した。
僕の予感が当ったのは、それから数日後。期末テストが始まって、いつもより早く家に戻ってきた時だった。
前の日から降り続く雨が車庫の屋根を伝い、地面に小さな穴を規則的に構成する。
ずぶぬれの体のまま、自転車を車庫に入れようとしたとき、それは起こった。
ゲージは銀色の格子。7月の生ぬるい雨粒が数滴伝っていた。何気なく覗いた囲いの中、奴らは僕から完全に背を向けて丸いからだを震わせている。
あれは確かウー子の方だった。ピーターラビットを思わせる薄茶色の長い毛。
ミー子の体を背後からしっかりと押さえつけ、かくかくと小刻みに尻を振る。
たっぷりと肉のついた尻はミー子の真っ白な尻にぴたりと合わさっている。
時間にして1分ぐらい。
ウー子は紛れも無く雄だった。わずかな隙を見つけて逃げようとしたミー子の耳を齧ると、更に激しく尻を振る。
姉さんや母さんを和ませた愛らしさは何処にもなく、真っ赤に燃える眼でミー子を支配する。
「チッ・チッ」
突然、ミー子の鳴き声が聞こえた。鳴かない動物だと信じていた自分は、ミー子の一声で相当なショックを受けた。
それは助けを求めているようには聞こえなかった。この、特別な行いをしている時にだけミー子は声を漏らすのかもしれない。
濡れたような目で、ミー子はどこかを見つめていた。
これか。
僕は心の中で唸った。
これが、あの風景だったのか。
津軽に生まれた面長の男は、頬杖をつきながらアンニュイな表情で、この情景を眺めていたのだろうか。
そしてひっそりと胸をときめかせていたのだろうか。
クライマックスを迎える頃には、ウー子はもう、一羽の兎では無くなっていた。
兎の面を借りた、獣の姿だ。
僕はウー子が力尽きるまで見届けると、部屋に行った。僕もいつかは、ウー子と同じ様な事をするのだろうか。
できればミー子の様な、色の白い子だと良い。尻の形がきれいな子だと良い。
その夜僕は、もういちどあの本を読んでから眠りについた。
たかが兎の交尾。だけど、僕はあの話を読むたびに胸がドキドキする。
そしてやっと自分の目で確かめることができたのだけど、僕は彼ほど興奮することは出来なかった。
彼の想いを共有できるようになったのは、つい最近の事。兎を飼い始めてから随分経っている……。
笑うとぽちっとえくぼのある、色白の女の子。
小柄で痩せているけれど、水着を着せてみたら、色んなところが程よく膨らんでいた。
僕が好きになった人「小波みなこ」は、そんな感じの子。
僕は見栄っ張りだから、極力彼女には自分の気持ちを見せないようにしている。
本当は手を繋いでみたいし、できたらキスだってしてみたい。
叶うのなら、僕もウー子の様に彼女を背後から押し倒したい。
そして激しく腰を振ってみたい。
だけど僕は耐えてみせる。彼女の前では常に礼儀正しく優しい先輩でありたい。
学習で遅れている部分があったら、余裕を持って教えてあげたい。
「紺野せんぱい」
ほら、また、あの甘い声で僕の名前を呼んでいる。
全く君は、さっきから隙だらけだ。どうしてそんなに丈の短いスカートを履いて、僕の前にいるんだ。
どうしてそんなに胸のあいた服を着ているんだ。
どうしてそんなに……魅力的なんだ。
「あのね、みなこさん」
彼女がくしゃみをしたのを切欠に、僕は羽織っていたカーディガンを脱いだ。
「もっと温かいのを着てきて下さい」
僕はそっと彼女の背中にカーディガンをかけた。
「だって……」
「そんなんじゃ、風邪ひくよ」
できるかぎり慈愛を込めて、僕は彼女を戒める。
「僕の姉さんが言っていたけど、女の子はその……あんまり腰を冷やすといけないって」
「どうして?」
本当にわからないと言う感じで僕を見つめる君。僕はやれやれとため息をつく。
「どうしてって、その。ほら、冷やすと赤ちゃんができにくいとか……聞いたことない?」
「……あっ」
やっとわかったのか、顔を赤らめると、羽織ったカーディガンのボタンをとめようとする。
「ねっ。もっと自分の体を大切にしなよ」
そうだよ。僕のためにもね。
いつか君と子どもを作るためにも、大切にして欲しいんだよ。
僕はきっと、あの兎と同じぐらい、君を責め続けるよ。だから…ね。
小柄な体の君は、僕の白いカーディガンをまとうと、更に可愛さを増す。
まるで兎の様だ。
fin
玉緒ちゃん。クロ玉緒ちゃん。
ちなみに、玉緒ちゃんが兎を飼いたいと触発された物語、タイトルは「思ひ出」。
誰の作品かは、ぐぐってみてw
私はこの作品を14の頃に読んで、ものすごく悶々としたのを覚えています。
PR
この記事にコメントする
[PR] 忍者ブログ // [PR]