こんにちは、花粉症でこの一週間あまり、夜のなると寝込んでいる状態です。
でも、毎年のことなので気になさらないで下さいね。
最近はついったーを中心に交流を繋げているのですが
時々メールやウェブ拍手で感想をいただけたりすると、本当にありがたいなあと思います。
頂いたメールやメッセージ、ありがたく読ませてもらっています。
「monmon」の方に感想を下さった方、どうも有難うございました。
花粉症がおちついてきましたら、話の続きを書こうと思います。
さてさて、話の続きでもしましょうか。小さなてんとうむしのお話を。
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Ladybird 3
朝方に見た流れ星。夜のおわりを告げるように、鶯色の空をひゅっと、星は斜めにまたいでいった。
流れ星って、きれい。そして、切ない。
星が流れていくのを見たのが始めてだったからかもしれない。誰よりも眠りを貪るのを趣味とする私が、
はじめて眠れなかった夜。人間の、あの人の事を思っていたら眠れなくなってしまったのだ。
あの人とであったのはほんの偶然。とすると、今度会える偶然はきっと無いと思う。
たとえ、同じ様に花の中でじたばたともがいでみせても、あの人は来ない。
一体どうしたら、あの人にもう一度会えるのだろう。私は真剣に悩んだ。
彼とであった場所は森の中でも畑の中でもなかった。
人工的なものが幾つか点在して、私達が心を許して住むには難しい環境だ。
そして私達が必要としている緑や美しい水は不自然な状態で共存していた。
そう、とても不自然な。
同じ種類の花が同じところで幾つも咲いて、同じ背丈で花を咲かせていた。
風が吹けば花はいっせいに同じ方向へうな垂れ、
まわりの木々も花たちに習うようかの様に同じ方向へ梢を鳴らした。
そうだ、あれは確か……。
消えていく流れ星を見た時、頭の中に「公園」と言う言葉が浮かんだ。
緑も花も水も人の手が加わった場所のことを、人間は「公園」と呼ぶらしい。
そこで人間は思い思いに羽を休めるのだ。
私がうっかり選んでしまったアネモネの花は、その公園の中にある花だったと思う。
きっとあの人は、公園に様があってきたのだろう、そして私は、あの人と出会ったのだ。
蒼い眼の中に浮かぶ小さな星。それはとても寂しげに光っていた。
明日、公園に行ったら……また会えるのかしら。
夜露で顔をぬぐうと、私は濡れた瞳のまま、空を見上げた。空は白々と明けていた。
「おい、アンタ」
夜が明けてから暫くした後。昨日の晩御飯の残りを食べていたら、聞き慣れた声がした。
けれど私は、聞こえないふりをした。
「どうしたんだい、念入りに体を磨いちゃってさ。
ははーん。さては、誰か良い相手でも見つけたのかい?」
昨日の晩のうちに、しっかりと夜露で体を磨いたおかげで、
私の体はいつになくきれいに光り輝いていた。
去年の秋、まわりに一日でも早く子孫を残すようにと進められた私は、
言われたとおり「集団婚活」に参加した。
きちんと体を磨いたのは、その時以来だ。
その時は、私は成人したばかりだった。何日もさなぎの姿で眠り続け、気がついたら自分の殻を脱いでいた。
殻を脱いだ瞬間、私は生まれ変わっていた。私の体型はそれまでとは別人なほど丸くなっていた。
つやつやの背中には黒い紋。空に浮かぶ星の様に、幾つも背中で輝いている。
私の背中の紋に惹かれて、同じ仲間の男達は束になって私に求婚した。
優しい言葉をかけてくれるものもいれば、強引に私と契りを結ぼうとするものもいた。
けれど、頑固として私はまわり拒んだ。急に、嫌気がさしたのだ。
子孫を残さなければ、卵を産まなければ、立派に成長したとは言えない。
何度もそういわれたけれど、私は聞こえないふりをした。
望まない繁殖なんて、絶対にしたくなかったのだ。
「なんで何も答えないのさ!昨日から本当にアンタはどうかしてるよ。
もしも、また昨日と同じところへ行こうとしたら……あたしゃ承知しないよ!」
鱗粉をあたりに巻き散らかしながら、おばさんは私に食って掛かった。
関係ないよ、おばさんには。だんまりを決め込むと、私は蓬の葉っぱでくるまれた部屋を出た。
「アンタ!どこに行っちゃうのさ!ちょっと……!!
人間に自分から会いにいくなんて、どうかしてるよ!!」
部屋には何も残さなかった。
ひょっとしたら、もうここには帰ってこれないかもしれない。
のんきにおばさんの嫌味を聞くこともできないだろう。
そう思うと、私の背中に向かって怒りをぶちまけるおばさんの声がとても愛しく感じる。
さよなら、モンシロのおばさん。そしてありがとう。みなしごの私を、今まで可愛がってくれて。
私はこっそりと、涙を拭いた。
そして少しも進まないうちに、私は羽を広げた。
いつも飛び方がへたくそだと周りの連中に野次られるけど、今日はいちいち気にしていられない。
「アンタ!」
すぐそばで、おばさんの羽音が聞こえる。けれど振り返ることなく、私は飛び続ける。
ふらふら、ふらふらと。アネモネの花が幾つも揺れる、あの場所へ。
神様お願いします。もう一度、あの人に合わせてください……!!
羽を精一杯に広げると、私は必死になって飛び続けた。
お日様の光が、じりじりと私の背中を焼き始めた。