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「となりのきゃくはよくかきくうきゃくだ
となりのきゃくはよくかきくうきゃくだ
となりのきゃくはよくきゃきくう…あーーーっ!」

「はーい、ざーんねーん。もーう一回やりなおしー」

「ええーー?もう一回?」

「うん!ちゃんと言えないと教えてあげない」

「ええー」

「ええーじゃないよ。言ったよね、お姉ちゃんが知りたいこと。
教えて欲しかったら早口言葉10回言うって」

「はあ…最近の小学生は手ごわいな」

「うん?何か言った?」

「ううん。何にも。さっ、しきりなおしするか」



日曜日の昼さがり、二時をまわったあたりから、私はよく隣の家の子と話をするようになった。
二年前に越してきた家は、建ぺい率ほぼ100パーセントの中古二階建て。
少し前に山を切り崩して作られた集合住宅地。
猫一匹もくぐり抜けることができないほどの僅かな隙間を作って、隣には似たような造りの家が一軒。
越して来てすぐに家族総出で隣の家に挨拶をした時、玄関口に「その子」がいた。
親の後ろから私達の様子を物珍しげに見ていた彼は、私と目があうと、はにかむような笑顔を見せた。

「今度4年になったばかりで…色々スポーツをやらせてるんですけど、背があまり伸びなくてね。
もういっつも漫画がゲームばっかりやっている子で。ほら、遊、ちゃんと挨拶なさい」

前に押し出されたその子は、親に向かって唇を尖らせた。
たぶん、背が低い事等「くだらない」情報を勝手に流したからだと思う。
「やだよ」とむくれる頬が、ほんのり赤く染まっていてた。何だか可愛いなと思った。

それから少しもしないうちに、彼は私の家に遊びにくるようになった。
窓ガラス越しに、私と彼の部屋が隣り合わせになっている事を知って、大胆にも窓から侵入してきた。
ちょっとした冒険心だったと思う。
両方の家に聞こえるぐらいのはしゃぎっぷりで、彼は私の部屋の窓枠に手をかけた。
ほんの数十センチの距離なのに、何だか落ちてしまいそうな気がして、
思わず手を差し伸べると、ぎゅっと彼は握ってきた。
その時、ほんの一瞬だけど、彼のことを異性だと意識した。
私よりずっと年下の子供なのに、そう思った。





「遊くん、ちょっと休憩しよ。何か飲み物でもいる?」
さっきからの早口言葉で喉が渇いた。下に行って飲みかけのサイダーでも持ってこようかと思って
彼の返事を聞いてみる。読んでいた漫画から視線をずらすと、彼は「いいよ」と笑った。
「いいよって?」
「あっ、俺。自分の部屋戻って取ってくるから」
すくっと立ち上がって窓辺の方へ向かっていく。
「え、なんで?遠慮することないよ」
いつもコーラーある?って聞くじゃない。ひょっとして家の人に何か言われたの?

ちょっと食べ物に煩い彼の母は、チョコやコーラーと言った、子供が究極に欲しがるようなものを与えていなかった。
だからその「毒の味」を知ったのは、全部この部屋だった。
そんな家庭の事情を知らなかった私は、普通に彼に提供していた。
私との他愛も無い話に、長い時間かけて付き合ってくれたお礼の品は数知らず。
ポテトチップスにマシュマロ、生クリームいっぱいのケーキにりんごのタルト。
彼が帰った後は、暫く部屋の窓をあけておかないといけいない程、私達は甘いものを貪った。
少ししてから、家では食べさせてもらっていない事を知って、私は酷く後悔した。
だけど彼は、私の部屋に来るたびに、無邪気にそれを欲しがった。
「お姉ちゃんといる時じゃないと」
そう言って、子犬のように甘えた目で強請られると、その通りにするしかなかった。

人懐っこくて、子供らしいところもあれば、時々驚くほど冷めている表情を見せる時もある。
もしも彼が、血の通っている兄弟や遠い親戚の関係だったら、
たぶん私は、それほど彼との交流が続かなかったと思う。
甘く毒々しい香りの中で過ごす彼とのひと時は、それまで退屈に過ごしてきた週末とは、少し違った。



「何これ」
窓越しに、小ぶりの缶とペットボトルの入った水、そして牛乳を私に預けると、
彼は「よいしょ」と窓枠に手をかけた。
「何だと思う?」
「…わかんない」
向かい合って、先に視線を反らしたのは私だった。
見慣れていた窓枠が急に小さく見えたのは、彼の背が急に高くなっている事に気づいたから。
この春で6年生になるのだから体が成長して当然。なのに、今まで何も気づかなかった。
腰をひねって半身を私の窓枠に乗り入れると、彼はそこで止まった。
「どうしたの遊くん」
「うん?うん…」
振り返って自分の部屋を見る。そして私の視線とぶつかると、彼は「ふっ」と笑った。
「なんかさ。最近、ここ、ミシミシ言うんだよね」
無事に私の部屋に入ると、彼は窓の桟を指した。
「何度もここを跨いでいると、やっぱりがたついてくるのかな」
安い素材を使っているのか、確かに窓の桟は少し歪んでいた。
「今度お父さんに見てもらうよ!」
「ありがとう、お姉ちゃん。でも…」
「何?」
「いつまでかな。こうやって来れるの」

私に聞こえるほどの小さな呟きだった。
窓越しに伝う客人は、いつしか私の背を越し、もうここから無邪気な顔で来ることはなくなる。
そんな日が、いつか来るのだと思う。
胸の奥がきゅっと沁みた。


部屋の真ん中に落ち着くと、彼は缶の蓋をあけ、中に入っていた匙を使って白い粉を計りはじめた。
その粉をグラスに何杯か入れると、次に牛乳を足した。
「ねっ、遊くん。何それ」
隣に座って、彼の顔を覗き見る。
何を調合しているか分からないけど、どうみても美味しそうには見えない。
「美味しい?」
「あんまり」
少し不機嫌そうな表情で彼は答えた。
匙でぐるぐるとかき混ぜると、まるで覚悟を決めるかのように深呼吸をする。
そして目を瞑ると、一気にその液体を飲み始めた。

ごくごくと喉を鳴らして飲み干すと、彼は「うええ」と呻く。
そして涙目の顔で私を見た。
「まずーーい」
「だから何?それ」
何でまずいものをわざわざ飲まなくちゃいけないのよ。
苛ついた私は、手元にあった缶に貼られたラベルを調べた。
「ぷろ…て…いん?」
プロテインって、確か…。
「筋肉増強剤」
威張った口調の彼に、思わず私は吹き出した。
「そんなのまだ早いよ!まずはごはんをちゃんと食べて、しっかり運動して、よく寝れば普通に背が伸びるし、筋肉だってちゃんとつくよ」
「母さんと同じこと言ってる」
「だってそうだもん。薬に頼っちゃ駄目だって!」
「学校の男子、みんなそれ飲んでるよ。
サッカー部のキャプテンも、これ半年飲んですげえ筋肉ついたって言うし」
「みんな飲んでるからって、危ないよ。それに遊くん、まだ…」
軽く説教を続けようと思ったのに、私はそこで止まってしまった。まだ子供だとは言えなかった。
言ってしまったら、彼の心を酷く傷つけてしまいそうな気がした。

「私は、今の遊くんが好きだよ」
ねっ。だからそんなに背伸びしないで。
持っていたサイダーの栓をあけると、私は一口飲んだ。そして残ったサイダーの瓶を彼に渡した。

「わかった。お姉ちゃんの言うとおりにする」
ぷっと膨らませた鼻の脇に、小さなにきびが一つ。
ふてくされた表情で、彼はサイダーの瓶に口をつける。
何かほっとした様な気持ちになって、私は早口言葉の続きを始めた。



FIN






遊く~ん。もうすぐ誕生日だね!
遊くんは、一年目の四月の時に、「もっと話をきく」にすると、遠足でとれたワラビやつくしやヨモギの話をしてくれるね。
可愛いなあ。遊くん。

遊くんと主人公ちゃん。年の差カップルとして
まだカップルにはなっていないけれど)、またこの話の続きを書きたいなあと思います。

あと話は変わりますが、カンナさん宅で開催されていた「色さま祭り」は昨日で終わりを迎えられました。
カンナさん、素晴らしい企画を有難うございました。
この企画のお陰でGSの良さを見直すことができました。
ほんとうに有難うございました!
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絵ちゃですか!♪
2008/04/01(Tue) res
カオポンさんこんばんは~v
TOP絵がまた可愛らしくとっても素敵ですv
「ちから抜ける絵」なんてとんでもないです、味がありますよv
金曜日に絵ちゃ開催予定ですか?!♪是非是非参加」させていただきます。もう、ほっんと絵ちゃは久しくしてなくて出すね最近禁断症状出てきてました。決まったらT.Hさんも誘ちゃおうかなv
どうぞどうぞ~!!
2008/04/02(Wed) res
さつきさんこんにちは~。
絵ちゃ来ていただけるんですか!うはぁ、有難うございます。すごく嬉しいです。一人でお絵かきするかなと思ってたので、ご一緒して頂けるなんて!さつきさんの絵が拝見できるのは凄く楽しみです。さつきさんのサイトをよく見に行ってますが、行く度に完成度の高いCGが見れて、凄いなあと感心してます。そういえば、絵チャしたいなあってさつきさん日記でおっしゃってましたね♪
こんな場で良かったら、がんがん描いて下さいませ。
それからお友達もどうぞウェルカムです。

TOP絵に感想を有難うございます。
画力が無いのは重々承知の上で描いてるんですが、味があると言って頂けて、凄く嬉しいです。
どうもありがとうございます。

ではでは金曜日。
花見絵チャ会場を整えて、お待ちしております!!
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